Essay 01
白と黒のあいだ
屋号「null」について
屋号を null とした。データベースにおける null は、0 ではない。空文字でもない。「値が定義されていない」という、それ自体がひとつの状態である。白か黒か、0か1か、と問われ続ける時代に、私は「まだどちらでもない」を選び続けたかった。
効率化は、曖昧なものを切り捨てることで進む。会議は結論を急ぎ、KPIは中間を丸め、組織図は人間を四角に収める。だが、切り捨てられたものの中にこそ、事業の最も豊かな文脈が眠っている。現場の暗黙知、ファンの熱量、言葉になる前の違和感。私の仕事は、この「あいだ」に秩序を与えることだ。
経営を芸術し、芸術を経営する。ふたつの動詞は逆向きに見えて、同じ場所で交わる。
経営には、数値化の手前で意思決定を左右する美意識がある。芸術には、世界観を持続させるための資本と構造の問題がある。どちらか一方の言語しか話せない者は、この交点に立てない。だから私は、データアーキテクチャの図面とアーティストの楽屋の、両方に居場所を持つことにしている。
整いすぎたものに、私はかすかな不信感を持つ。完全であることより、可塑的であることを選ぶ。null という屋号は、その態度表明である。